そこで、もういいと言わんばかりに、伯父は頭を横に振った。彼は口を開き問いかけてくる。
「壁の向こうに望みを託したのか。何か手立てがあるものと」
「元より、調査に人を送り込んではあった。だが、そのような進度では間に合わない」
ナッティアはあからさまに大きく、ため息をつく。
「お前は愚かだ。やはり国王として相応しいとは思えない」
結局、彼から引き出せるのは拒絶の言葉だけだった。身を固くするテーピアに対し、ナッティアは鋭い視線を向けた。
「……だが、今もお前は王なのだ。それは覆らなかったのだから」
そして、口を閉ざす弟へ諌めるように話しかける。
「テーピア。まさかこの段に及んでためらっているのではあるまいな」
その口調はどこか柔らかく、言い聞かせるような響きがあった。
「聴取はすでに終わっている。私は包み隠さず話したつもりだし、他の者の証言とも矛盾はないはずだ」
事を起こしてしまった以上、彼が助かる道はない。彼の言い分が理解できようとも、助けてはいけないのだ。
同時に、それは彼の望みではない。
「さっさと実行の印を押せ。焦らされる趣味はない」
突き放され、テーピアは呻くように問いを投げる。
「兄上。何か……何か言いたいことは、もうありませんか」
「意見はいくらでもあるがな。お前がけして聞き入れないことが分かった以上、もう口にする意味はない」
そう宣言されては、もはや話を伸ばす理由もなかった。戸惑いで黙る弟に対し、兄はぽつりと呟く。
「だが、一つだけ、赦されるのならば」
ナッティアは背筋を伸ばし、一分の隙もない佇まいで王と相対した。
「息子の命だけは見逃してほしい。これは愚かな故に、父に粛々と従っていただけで、己の思惑などない。このように無様な結末を迎えた以上、今後とも王家に仇なすような真似はできないだろうて」
途端、ディーディスは息を呑む音も大きく、目を見張った青ざめた顔を父へと向ける。何か言いかけた彼を沈黙させたのは、父の鋭い一睨みだった。
「それだけを頼む」
そして、縛られた姿勢のまま、ナッティアは深々と頭を下げたのだった。