場は膠着状態にあった。
取り囲まれた側は情報交換に忙しく、取り囲んだ側は手を出す契機を見出せないままでいる。
「どうした、その顔と肩」
「計画通り、と言いたいところですけど、単にしくじりました」
「平気か?」
「ものすごく痛いので、帰りたいです」
「よし、帰れ」
「無理です」
お互い真顔で本気だかどうだか怪しい会話を繰り広げるシードとニッカを横目に、サラリナートは横たわるアピアの頬に手をかける。
「アピア……ごめんね……ごめん」
そしてぼろぼろと涙をこぼす幼馴染に、アピアは優しく問いかけた。
「どうしたの、サラリナート。泣くことなんてないよ」
「ひどいこと、されてるんでしょう」
「されてないよ」
「服、破れてるし、血がついて……」
「ああ、大丈夫。怪我は……うん、してないし。これは勘違いが起きただけだから」
実際、少なくとも現時点では伯父も自分が傷つくのは困るはずで、今まで丁重に扱われていた。今回は色々と間が悪かっただけだ。
「……裏切り者って責めてくれていいのに。そうすれば、きっと私、開き直れた」
「だって、サラリナートは誰も裏切ってないじゃないか」
それを裏切りというなら、最初に伯父を、そして国の人々の信頼を裏切ったのは自分たちだ。
「たぶん誰一人、裏切ってなんかいないんだ」
もしくは、誰もが何かを裏切ったのだ。
「おい、奴ぶっ殺しにいくぞ。いいな」
そこで突然、シードが顔をぬっと出してそう告げてきた。目線で問い返すと、隣にいたニッカが一通りの説明をしてくれる。ゼナンの出現、父母の場所、そしてそこに至るまでの経緯。
「舟どこだ」
「待って。それじゃ駄目だ」
さっさと動こうとするシードを、慌ててアピアは引き止める。
「乗り込んでも人質に取られたらどうにも出来なくなる。だから、向こうがそれを出来ないようにしなくちゃいけない」
そしてアピアは起き上がろうとしたが、それは果たせなかった。
「ごめん、意識ははっきりしてるんだけど……さっきから全然体が」
全てを言い終わる前に、シードがその体を軽く掬い上げる。彼にとってはそれくらい負担にもならない様子だ。
「で、何するんだ」
「……宝器庫に戻りたい」
決意の色を瞳に、アピアは宣言した。
「城を、掌握する」