待望の第一子だった。
その日、朝から頭痛が治まらず、寝台から起き上がれなかったことで、テーピアは産みの時がいよいよ今日だと悟った。前はここまでたどり着けなかったのだ。
あの、“繋がり”が徐々に弱っていき、ついにふつりと途切れる感覚を思い出してしまい、顔から血の気が引く。あんな思いはもう二度としたくはない。
何よりも、メイエがあのように落ち込む姿を見るのはもう二度と御免だった。彼女は優しい故に周囲の強い感情に惑わされやすく、体が心に引きずられる性質だ。あの時も、体にさほど影響が出ない時期に流れたというのに、一月寝込んで外に出られなかった。ここまで来て、万一ということがあったら……最悪の想像が頭をよぎる。
侍従長を呼び、ついに今日だということを告げ、メイエの側へ連れていってくれるよう頼む。侍従らにもそろそろだという心の用意はあったので、すぐさまその要望は叶えられた。妻もまた、自分のことを待っていたらしく、こちらの顔を認めるとほっとした様子を見せる。可能な限り側にはついていたが、公務もあって特に最近はそれもままならない状態だった。さぞ不安だったろう。
望まれているのは無事な誕生だけではない。跡継ぎ、つまり選定印所持者が産まれてほしいという期待が、さらに彼女を追い詰めている。父親にも産みの繋がりがあるとはいえ、実際に子を育んでいるのは母親だ。加えて、国王に直接物申すのではなく、王配に匂わす態度を取る者の方がずっと多いに違いない。けしてそのようなことを打ち明けはしないが、彼女の心労は相当なものだったことは察せられる。
それも今日で一区切りだ。生まれたなら生まれたで別の思惑がまとわりついてくるのだろうが、今よりはきっと気も楽だろうと思う。何よりも、早く自分たちの子どもの顔が見たかった。
その考えがひどく甘いものだったと、すぐに思い知らされることになるとは、その時の自分には想像すらできなかったのだ。
初めて経験する産みの時は、全身の力が抜けていくような感覚を一番良く覚えている。メイエはもっと辛かったに違いない。ようやく終わった頃には、精も根も尽き果てていた。それでも、侍従たちの喜びの声で体を起き上がらせる。
「陛下、お子様は印をお授かりです!」
そう告げられた時には、心底ほっとした。兄の顔が胸中をよぎる。上の子が後継者ならば、自分たちのような確執は起こらない。メイエへの重圧も、立派に役目を果たしたということで軽減されるだろう。
皆に望まれ、祝福された子ども。
次の玉座を継ぐ、神に選ばれた子ども。
あまりにも理想通りの展開すぎたせいか。テーピアが根拠のない不安をふと覚えたその時、侍従の一人が小さく声を上げる。
「あら、何か持って……?」
コツン、と床から鳴った硬い音が、その歪みの始まりだった。