8月1日(金) 台風
朝からすごい大雨で、とても外に出れません。これでもまだ台風は上陸していないそうです。自然の力はすごいと思います。
空は暗く、差し出した手のひらに当たる雨粒は痛かった。居間のテレビを廊下から覗くと、妙にはしゃいだ声でレポーターが台風の接近を告げていた。日本列島の絵の上に白い二重丸が幾つも描かれている。ちょうどこの辺りに重なるのは明日の昼頃のようだ。
試しに傘をさして一歩外に出てみたが、柄を持つ手にまで伝わってくる雨の衝撃に出かける気はあっさりと失せてしまう。行ったとしても誰もいないだろう。
僕は自分の部屋に戻りかけ、はっと気づいてまた玄関へと帰る。そして電話の黒い受話器をとってダイヤルを回した。
五回くらい呼び出し音がなっただろうか、不機嫌そうな女の人の声が聞こえてくる。
「はい」
「あの、ヒロキと言いますが、モトナオくんいますか」
「ああ……素直、友達から電話よ。のろのろしてないでさっさと出なさい!」
どうやら彼はまだ家にいるらしい。胸を撫で下ろし、受話器の向こうに耳を済ます。二、三度彼の母親の急かす声が聞こえた後に、ふと気配が宿った。
「どうした?」
間違いなく素直の声だ。
「今日は行かないよね?」
「ああ、こんな雨じゃな……明日も無理そうだな」
それさえ聞ければ安心だ。今日は何をするつもりかと聞くと、彼は宿題を写
すと答えた。昨日、宗太郎達が家まで持ってきてくれたそうだ。
「それなのに留守で悪いことしちゃったな」
「一緒に出かけてたのは言えないね」
「秘密だぞ」
それからしばらく話して電話を切り、僕も今日は仁菜に手伝ってもらって自由工作でもしようと決める。部屋に戻ろうと階段を上がる途中、かかっているカレンダーが目に飛び込んできた。ヒマワリの新しい絵柄になっていたからだ。
八月。
僕は何故か背中に震えを覚え、急いでそこを離れて部屋へと滑り込んだ。