8月15日(金) 晴
おぼんは今日でおわりだ。川にたくさんのちょうちんが流される。
モトくんやおばあちゃんもあれに乗って海に行くんだろうか。
昨日、体力を消耗してしまったせいか、熱は下がったものの暑いうちはまだあまり動く気になれなかった。また倒れてあんな夢を見るのはごめんだ。魔王につけ入る隙を与えてはいけない。
僕は部屋で、ここ何日かつける暇がなかった日記を改めて記していた。たくさん書くことがあるはずだったのだけれど、どうしてかうまく書けず、どの日も二、三行で終わってしまった。逆に、宿題用のものはすらすらと書ける。もっとも、逃げていた三日の間はどう書いていいものか迷い、結局あの記者に言ったような内容にして、最後に「反省しています。もうやりません」とつけ加えることにしたが。
窓を開けていても、風はほとんど吹き込んでこなかった。町中が熱を出してまどろんでいるみたいだ。魔王はこの町が見てうなされている悪い夢なのかもしれない、とふと僕は思った。
夕方が近づくと、さすがに暑さも和らいでくる。凪いでいた風も次第に吹きはじめ、心地良い気候になった。
窓の下を小さい子供が藁舟を持って駆けていった。
「川に行こうか」
ようやく動く気になった僕は仁菜を誘って外へ出た。川への道にはちらほらと人影がある。橋には他の子供がむらがっていたので、僕と仁菜は川岸に下りて、目立たない位
置に座ることにした。
待っていると、川の流れに乗って藁舟がくるくる回りながら目の前を過ぎていく。
「あれはなぁに?」
仁菜の疑問に僕は笑って答えた。
「あれにね、魂が乗って帰っていくんだよ」
「たましいって?」
「死んだ人のこと」
素直はようやくこの町を出ていけるのだ。僕は昨日の夢を思い出し、そう考えていた。電車ではだめだったけど、川ならまっすぐ海へと通
じている。
「ばいばーい、モトくーん」
仁菜が立って、流れていく舟に手を振った。
「ばいばーい、おばあちゃーん」
暮れていく空の下、舟に乗った提灯が明るく輝きはじめている。