夏の魔王

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7月29日(火) 晴

 魔王をどうやって探したらいいんだろう。分からなくなってきました。

 今日は宗太郎が一人でいた。なんだか段々と集まりが悪くなっているみたいだ。昨日の真哉の態度もあって、僕は窓枠にもたれかかって空を見ていた宗太郎の側へひどく落ち着かない気分で寄っていった。彼は小さく手を上げて挨拶してくる。
「今日も暑いな」
 僕は涼乃が宿題を片付けるために勉強会をやろうと言っていたことと、真哉と庸介が魔王を探す気がないらしいということを彼に伝える。後者について、宗太郎は気分を害するか、下手をすると怒り出すかもしれないと思っていたのだが、彼はあっさりとそれを受け流した。
「ああ、そうかもね」
「そうかもって……それでいいの?」
「しょうがないだろ。魔王がどこにいるのか全然分からないってのは事実なんだし」
 宗太郎の言葉はどこか突き放したような含みがある。それに彼は目線を僕の方へ向けなかった。いつもの宗太郎の態度じゃない。彼は余裕がなく、疲れているみたいだった。それはとても母に似ていた。
 だから僕は気詰まりで、次に何を話そうかと頭の中で幾つも候補を選び出す。庸介と真哉があまりよくないことをしていたこと、素直を見かけたこと、千衣子のあの後の様子はどうだったか、でもどれもこれも今の場にはふさわしくないような気がした。
 だから、僕はつとめて明るくこう言い放つ。
「モゲモゲ様は強いんだよね!」
 こちらにやっと向けられた宗太郎の目は訝しげな光を帯びていた。
「モゲモゲ様は今回のことについてどう言ってるの?」
 これにまで無言で返されたら、きっと僕は怯んでしまい、もう何も言えなかっただろう。だが、宗太郎ははっきりと頷いてくれた。
「うん、モゲモゲ様は最強最大最先端のスーパー神様だから指一本で魔王なんて楽勝だとおっしゃっておる。しかし今現在は田舎に里帰り中のため来れないそうだ」
「じゃあ、夏が終わったら帰ってきて助けてくれるね」
「もちろん助けてくれるよ」
「必殺技はゲモゲモ踊りだっけ」
「破壊力抜群さ」
 ほらを吹いている宗太郎が一番生き生きしている。僕はそういう宗太郎が好きだ。だから、合わせてくれて嬉しかった。それどころか彼はひとしきりゲモゲモ踊りを実演してくれたので、僕は真似して二人して笑った。けれどその楽しげな雰囲気も終わってしまえば長くは続かない。
「みんな遅いね」
「そうだな」
 またふっと疲れた空気が漂う。もしかしてこれが宗太郎の素なのかもしれないと、僕が初めて気づいたのはこの時だった。彼はひとつ伸びをし、そしてぽろりとこぼした。
「ヒロキんとこの母さんって父さんいなくて淋しがってる?」
「え?」
 突然の問いだったので、僕はそんなふうに聞き返すだけで答えられなかった。それで宗太郎ははっと気づき、困ったような笑みを口に浮かべる。
「ああ、ごめん、変なこと言った」
 彼は首を振り、呟く。
「ヒロキんとことうちは違うもんな」
 何かあったの、とは聞けなかった。昨日真哉に聞いたことと関係あるかもしれない、とは思ったけれど、それを口に出すとすごく嫌なことを思い出しそうだった。
 だから僕は何も言わず、ぴょんと窓枠に飛び上がると、両足を外に出してそこへ腰掛ける。
「落ちるぞ」
 宗太郎の警告に僕は背を向けて答えた。
「落ちたら浮くよ」
「……そっか」
 夏の空は馬鹿みたいに青くて綺麗だ。僕は衝動的に息を吸い込み、そして山へと向かって意味のない音で叫んだ。
 山彦が返ってくる。

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