夏の魔王

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8月29日(金) くもりのち晴

 くん練の後、みんなで花火をした。飛び散る火花はとてもきれいだ。

 今日は一日中、フォーメーションの練習をした。主に僕と宗太郎が魔王の動きを封じて、真哉と庸介と涼乃が攻撃する手筈だ。体を動かすのは心地よく、何も考えずに済んで楽しかった。今ここに魔王が現れてくれるなら、倒せるような気さえする。もちろんそんなことはなく日は暮れ、また一日決戦の日が近づくことになる。
 しかし今日はそれで解散とはならなかった。花火をする段取りになっていたからである。山を下りた後に抜け出してきた千衣子と合流し、僕らは河原に向かった。
「そういえば、この花火、誰が持ってきたの?」
 用意された花火セットは結構豪華なもので、打ち上げ花火まで数本入っていたから、千衣子の疑問ももっともだ。手を上げた真哉が彼女に疑惑の眼差しで見られたのも。
「みよし屋の前通ったら、配ってたんだよ」
 対する真哉の言い分はこうだった。店の前にダンボールが置いてあり、自由に持っていっても良かったそうだ。おばあさんの家族がやったのかもしれない。僕らはありがたくその好意を受けることにした。
 庸介の持ってきたライターで、まずは手持ち花火から始める。ぱちぱちという音と共に、色々な火花が散って消えていく。白い煙は空へ立ち昇って鼻をくすぐった。
「わはははは、四刀流!」
 いきなり最初っから真哉はかっ飛ばしていた。両手に二本ずつ持って、ぶんぶん振るいながら飛び回り、光の軌跡を生んでは喜んでいる。庸介が無言で数個のねずみ花火に火をつけ、彼の足元に行くように計算して離す。
「男の子たちはしょうがないわね」
 線香花火をより分けながら、涼乃が洩らした。そのうち打ち上げ花火や吹き上げ花火で撃ち合いしかねないので、僕は先にその中で一番危険そうなのを使ってしまうことにする。
「あ、ヒロキが二十連射とったぞ!」
 しかし、目ざとく宗太郎に見つけられてしまった。途端に真哉や庸介が確保に走ってくる。慌てて火を点け、しかしそれだけだと結局横から奪われたら砲台になってしまうと僕は気づく。とっさに彼らの手の届かないところにやらなくてはいけない、と反射してしまったのだろう、僕は思わず力を発動させていた。しかも慌てていたせいか、バランスが悪かったのか、浮き上がった花火はくるりと反転して噴射口を下に向ける。
 当然、地上に攻撃が開始され、寄ってきていた男子たちは慌てて逃げ出した。
 そんな馬鹿なことを繰り返すうちに、どんどん花火は減っていき、夜も更けていった。もう線香花火数本と、最後のために残しておいた打ち上げが一つしか残っていない。僕らは改めて河原の石に腰掛け、線香花火の小さな火花の音と、川のせせらぎを耳にした。
「今日の月は二十三夜って言うんだって」
 涼乃のその言葉で、僕らは空を見上げたが、そこに月の姿はない。彼女はくすくすと笑ってこう続ける。
「出るのが遅いのよ。寝ないで昇るのを待つと願いが叶うらしいわよ」
「俺、起きてる、起きてる!」
「九時になったらもう眠いくせに」
 千衣子が真哉に突っ込み、真哉は絶対起きてるもんね、と強がりを言う。
「マツゾエくんは何をお願いするの?」
 涼乃の問いに彼は本気で考え込んだ。そして、ぽつりと洩らす。
「……世界人類が平和になりますように?」
「嘘つけ、お前よー!」
 今度は庸介に突っ込まれた。
「さ、そろそろ最後の打ち上げいくぞ」
 それに反論しようとした真哉を抑え、宗太郎は最後の花火を河原に設置する。点火はやはり真哉がやりたがった。
 淡い色の煙を引いて、空へと火の玉が昇っていき、弾ける。僕らはそれを目で追った後、しばらく無言で佇んでいた。
 明後日にはすべてが決まる。

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